松田様にお電話を戴いたのは2004年9月中旬だった。 電源システムを試聴されたいとのご要望で、お使いのシステムをお聞きするとスピーカー:B&W N801 CDプレーヤー:ESOTERIC P0 D/Aコンバーター:WADIA21 パワーアンプ:KRELL 200Xとかなり費用を掛けておられる。 しかし、思う様な音にならず部屋が悪いのかも知れないとの事だった。 最近は月に1〜2回は関東へ出向いているので、タイミングを合わせてクリニックへお伺いする事にした。 クリニック当日。 松田さん宅は九十九里浜の近くで、都内から1時間足らずなのに、田園風景の広がるのどかな場所にあった。 邸宅の門から車で入ると洋風の立派な建物が距離をおいて建っている。 奥の建物がお住まいで、手前の1階が仕事場、2階がオーディオルームだと案内して戴く。 部屋へ入るや否や、私はいつもの様に声を出したり拍手を叩きながらあちこち動き回り、部屋の癖をチェックしたのだが、エコーが短いとは感じたが特に変な癖を感じなかった。 そこで、この部屋なら必ず良い音になりますよ!とハッキリ宣言したのである。 もし、良い結果が出なければ大恥をかくところだが、私には松田さんを納得させるだけの自信が有った。 松田さんは今までにアクセサリーやケーブルを散々試しても駄目だったと、半ば諦めておられたのだが果たしてどういう結果になるのだろうか? 確かに、対処する前に出てきた音は低音の音階が無く、量だけブカブカと出る、あちこちでB&Wが鳴っているそれだった。 とても掛けられた費用に見合う音質ではなく、松田さんに同情してしまう。 それではとIPT4000Anを壁際に設置し、200V用クーラーのコンセントから仮設で接続した。 音が出た瞬間、松田さんの顔色が変った! 電源だけでこれ程大きく変化するとは思っておられなかったのだろうが、いつもながら、アモルファスコアーの威力は物凄い!いきなりノイズフロアーがグンと下がり、それまで聴こえなかった音がさも当たり前の様に出てくるのだから。 しばらくそのままで鳴らしていればまだまだ良くなりますと松田さんに告げ、私は車へタバコを吸いに行き色々考えた。 今の音ではN801の能力の半分も発揮されていないが、いま他の対策を行うべきかどうかと…。 私は、同時に複数の事を行わない様に心がけている。 何故なら、仮に数段音質が良くなったとしても、これをやればこうなると1つずつ理解して貰ってから対策を行わないと、お客様が後で同じ問題にぶつかった時に経験として役に立たないからだ。 とりあえず部屋へ戻った。 アモルファスコアーは、車で振動を加えると当分本調子にはならない。 案の定、松田さんは不満点をあれこれ口にされ始めた。 しかし、高音が煩いなど私が感じている事とほぼ同じ不満だったので、時間が解決しますから聴いていて下さいと告げ、私は振動対策を行う事にした。 N801の下には厚さ5cmくらいの御影石が置いてあり、T社のスパイクを介してセットしてある。 今回の様に、低音の音階が正確に出ないという現象は、あちこちでよく耳にするが、問題点は中低音なのであり、低音域をコントロールしようとしても無駄なのである。 基音である中低音をコントロールすれば、それに伴って倍音成分が乗り、高音域の伸びや低音の音階も正確に再現される様になる。 いよいよ振動対策だ。 車からV.E.S-Lを取り出し2階まで運ぶのだが、なんせ58kgもある。 自分で作っておきながら、なんでこんなに重いものばかりなんだろうと腹を立てながら汗だくで運んだ。 まず、御影石を取除き2人がかりでスピーカーの下へV.E.Sを敷く。 そしてST-BASEを3点でセットした。 面白半分で片側だけセットした状態で音を出す。 案の定、音場はV.E.Sをセットした方へ完全に寄ってしまい、反対側のスピーカーが鳴ってないと錯覚する程だ。 急かされる様にもう一台をセットし音出しをした途端、音場が広がり前後の位置関係も出てきた。
ここまでくればもうしめたものだ! 私は音の良くなり方をお客様へ理解して貰う為に、対数カーブで良くなりますと説明している。 装置の中に沢山の問題点がある時に、1つや2つの問題を取除いても変化はするが投資に見合った効果とは言えない事が多い。 いや、むしろ何処かが良くなると、他の悪い部分(癖)がハッキリ解り、バランス的にはむしろ悪くなってしまう事さえある。 ここで判断の基準を間違えると、終わりの無い泥沼地獄へ陥ってしまう。 これから変更しようと考えておられる方は、何かを変えた時の判断基準は「基音である中低音」であると言う事を覚えておいて戴きたい。 つまり、耳に付く中高音などは後でどうにでもなるから、中低音が良くなったかどうかで判断するべきなのだ。 松田さんはスピーカーの振動対策にいたく感動され、もうノリノリでCDプレーヤーからアンプまでV.E.SとST-BASEをセットする事になった。 さて、出てきた音は?!余韻が正確に再現され同じソフトとは思えない程の変容を遂げたのである。 しかし、しばらくソフトをとっかえひっかえ聴かれた松田さんが、まだ高音が耳に付くと言われ、私の耳にも、ソフトには入っていない付帯音がかなり耳に付く様になった。 さて、そろそろ最後の止めだ! 私は自慢の銀単線CMSシリーズを取り出し、一つずつ取り替えて行く事にした。 松田さんはケーブルに相当凝っておられ、特に首都圏で人気の高いP社やW社のケーブルを多用されている。 これらの高価なケーブルは、電源も含め装置に癖の多い状態では有効に作用する事も多い。 しかし、それは全くの勘違いであり、癖同士が絡み合ってさらに混沌とした状態になるだけなのだ。 それが証拠に、そういうケーブルを使っている人ほど不満が大きく、装置をとっかえひっかえやっているではないか。 癖を根本から取除く努力を怠り、安易にケーブルで音をコントロールしようとしても、気になっている部分は良くなった様に聞こえるかもしれない、しかし根本的な解決にはならないのである。 そんな人は、貴方が良いと信じているアンプやスピーカーの内部配線を覗いて見たらどうだろう。 おそらく、がっかりする筈だ。 話が逸れたが、CMSケーブルへ交換する度に音像が引き締まり音場が広く深くなっていく。 スピーカーから音が出ているという感じが無くなり、ライブの現場が広がる様になってきた。 しかし、ケーブルのエージングが終っていないので、高音の硬さはまだ残っている。 現状の音に絶対不可欠なIPT4000の注文を戴き、他の物は全て貸し出しと言う事で次回お伺いする事にした。 帰り道に、松田さんから携帯へお礼の電話を戴いたが、声が弾んでいたのが印象的だった。
松田さんは俄然やる気を出された様だ。 私が帰ってから、DENTEC製品の効果を系統立てて理解する為にアクセサリーを元に戻したり取付けたりを繰り返され、その結果、V.E.S、ST-BASE、CMSケーブルをトータルで採用するのが1番良くなるという結論に達したと電話が入った。 どれ1つとして元のアクセサリーの方が良かったという物は無かったそうで、改めてDENTEC製品の実力を実感されたそうである。 V.E.Sを何台も追加注文戴き、重いので次回お伺いした時に設置させて戴きますと答える私に、自分でやるから早く送ってくれと居ても立ってもいられない様子なので、送らせて戴くことにした。 それは良いのだが、腑に落ちない事を言われたのが、1つだけ気になる。 先般、P0にワードシンクジェネレーターG0Sを付けると数段良くなりますと提言したのだが、早速手配して接続してみても、それ程大きくは変らないと言われるのだ。 ノーマルのP0はジッター精度が50ppm程度だから、ルビジュームのG0Sを外付けすれば1ppm以下となり、相当良くならなければお奨めした意味が無い。 そうこうしている内に、次の出張となったのだが、2回目にお伺いして2つビックリした事がある。 1つ目は、見慣れないホーン型スピーカーがN801と並べて置いてあった事だ。 聞けば、アバンギャルドのDUOだと言われる。 このスピーカーは、数年前にCESへ行った時にメーカーのブースで鳴らしていたが、私には音が良かったという印象は無かった。 松田さん曰く、音を気に入って買った訳ではないとの事なので、まだエージングも効いていないだろうし、今回はN801を鳴らす事に専念する事とした。 2つ目は、前回までは床全面にカーペットを敷いて有ったのに、スピーカーからリスニングポイントまでカーペットの上に厚手の合板を敷いてあった事だ。 実は、前回エコーが少なすぎると指摘し、板を敷かれたらと提言していた。 通常の部屋では、そのやり方では床と天井間でフラッターエコーが生じ、音を濁らせる原因となるのだが、この部屋は天井が傾斜しているので問題ない。 しかし、1人でよくやられたものだと感心した。 今回は重たいものは殆ど無いし、事前に送り付けていたので非常に楽だった。 ケーブルを試聴用から新品に交換し、IPT4000Anへアルミパネルを取付けて4000Aへと加工するくらいで、後は様々なソフトをゆっくり聴かせて戴いた。 やはり、前回とは雲泥の差である。 これから、エージングの終了と共に細部を煮詰めていけば、部屋全体がライブの現場に変容するのは間違いないだろう。
次の出張がやってきた、今回はアンプ類の見直しだ。 とは言っても、買い換えて戴くのではなく、出来るだけ現在使っておられる機器を有効利用しようという話なのである。 私の経験上、パワーアンプに問題が有るケースは非常に少ない。 松田さんはK社のパワーアンプの重厚な鳴り方を気に入っておられるから、それの良さを生かした使いこなしでどれだけ良くなるか?を確かめて戴く事にした。 まず、私が最初から気になっていた問題点は松田さんがプリアンプを使っておられない事だ。 高価なM社のプリアンプを持っておられるのに、W社のD/Aコンバーターのバリアブル出力から直接バランス接続でパワーアンプに繋がれており、部屋の片隅でホコリを被っている。 理由を聞くと、やはりプリアンプを介在する事による情報量の欠落と癖が気になるとの事だ。 しかし、その方法ではD/Aコンバーターのディジタルボリュームを介する事となり、小音量時の情報量が欠落してしまうが、プリアンプを通すよりはましだったと言う事だなのだろう。 さて、ここで最初にお伺いした時から出番を待っていたTRC-Aの登場である。 接続はアンバランスにはなるが、とりあえず接続してみたところ、ローエンドが伸びきり余韻の出方など空間情報が数段上がった。 しかし、まだ私の耳には付帯音が気になる.... 経験上、アンプでの付帯音だと判断し、LC-Audioのディジタルアンプ プレデターに入替えてみる事にした。 相手は何百万もするK社の怒級モノラルアンプである(しかも購入されて間もない)小脇に抱えられる程のアンプで果たして勝負になるのだろうか? 音が出た途端、松田さんの表情が変った(何だこれは?) 今までに聴いた事がない表現力で、いとも簡単に38cmウーハーのN801をドライブしているではないか。 居合わせた者が皆あっけに取られてしまった。 通常、ディジタルアンプと言うと安く大パワーが取り出せはするが、とてもハイエンドでは通用しないと言うのが定説である。 この様に直熱3極管アンプをイメージさせる様な爽やかさと滑らかさを持ち、しかも位相ずれが全く無いなどと常識では考えられない鳴り方を、いとも簡単にやってのけたのだ。 電源のシッカリしたアンプを選んでLC-AudioのディジタルアンプユニットZAP-Pulse2.2SEへ乗せ代えれば更に良くなりますと説明すると、松田さんは既にその 気になっておられ、中古アンプの選定から全てをお任せ戴いた。 とてもプレデターを持って帰れる様な雰囲気では無いので、2台をバイアンプ接続しアンプが出来上がるまで貸出させて戴く事にした。
さてアンプの選定から任されてしまったが、バイアンプとなると同じステレオアンプを2台用意しなければならない。 しかも、ステレオアンプで左右独立電源という条件付だから、なおさら難しい。 もう新品の中から選ぶしかないのかと、半ば諦めかけていたところに助け舟が入った。 何とプレデターを試聴されたお客様からMCCORMACKのDNA1 2台と入替えて欲しいとの要望なのだ。 渡りに船とは正にこの事で、10年前のステレオアンプでは有るが電源が非常にシッカリしている。ただ、左右独立電源ではあるものの、平滑回路のコンデンサーが各パワートランジスターの直近へ配置してあり、使えるのはトランスと整流器位しかない。 何とか工夫してドライブ基板の位置へ入れようとしたが、2台を比べてみると製造年代がかなり異なっており、コンデンサーの質が全く異なる事が判明したのである。 国産のアンプでは同一の型番で部品が異なる事はまず有り得ないが、規模の小さい海外メーカーの場合は往々にしてこんな事になってしまう。 松田さんの了解を取り、平滑コンデンサーを高価なブラックゲートのBG-FK 80V 10000μFに変更する事とした。 しかし、技術革新とは言え、目を剥く程音質が良くなりながら、これ程小さくなるなんて未だに信じられない。 現時点でそうなのだから、これからは1年周期くらいでディバイスが改良され、その都度基板さえ入替えれば最新の音質へ成長する時代となるのは間違いないだろう。 組立は1日で終わった。 これで電源電圧が±65Vだから8Ωで250Wも出る。パワー自体は驚く様な数値ではないが驚くべきはその効率の良さである。 メーカーの説明によると、効率が95%と言う事だから、40〜60%も熱となるアナログアンプとは全く比較にならず、正に省エネ時代に即したアンプと言えるだろう。 さて、いよいよ試聴だ。 リファレンスとして設置して間もないTAD M-1の出番だ。 やはり、ディジタルアンプであっても電源の質は大きく音に影響した。 いや、むしろアナログアンプ以上に差がハッキリ出ると言った方が良いだろう。 この鳴らし難いスピーカーを、いとも簡単にドライブしてしまうのだ。 しかも聴いた事の無い超S/Nを伴っての音場再現は、リアルすぎて気持ち悪い程だ。 5.1チャンネルなど全く必要ない! 2チャンネルで部屋全体がライブの現場へと代わってしまうのだから。
さて、いよいよ松田さん宅へ納品だ。 プレデター2台と入替えた途端、松田さんの口から「スケールが違いますね」との言葉がでた。 この日が余程待ちどうしかったのだろう、まだまだエージングが必要ですと説明する間にも、そんな事は上の空でソフトをトッカエヒッカエされている。 暫くして、やはり低音の膨らみは完全には取れませんねと言われた。 確かに雄大でブーミーではない低音が出てはいるが、やはり生に近いとは言い難い。 ASC録音の土と水を再生すると、やはり井上さんのウッドベースにスピード感が伴わない。 松田さんは、これ以上はもうこの部屋では無理でしょうと半分諦めの表情である。 松田さんの事だから、部屋を根本から作り変えると言い出しかねないな〜と考えながら、部屋の中を歩き回って見た。 何と、部屋のどの位置でも低音の質感は変わらないのである。 このアンプを入れるまで(アナログアンプの頃)は、結構変化していたのに不思議だ。 と言う事はアンプがスピーカーの問題点を指摘している事になるではないか? 私は、B&WはM801の時代に大きなミスを犯したと考えている。 それは、ユニットの取付方法なのだ。 当時のB&Wはユニットで発生した振動をエンクロージャーへ伝えないという発想か ら、ゴムのスペーサーを介してエンクロージャーへ取付けていた。 これはどう考えても理屈に合わないし、ノーマルでの再生音は納得のいくものではなかったから、弊社で販売するB&Wは全てスペーサーを取外し、代わりに金属のスペーサーでガッチリとエンクロージャーに固定した。 当時の輸入代理店であるナカミチへはその事を伝えており、担当者のAさんも音質を納得していたからその事はB&Wへ報告されている筈である。 それが証拠に、現在のB&Wにはゴムでユニットを浮かしている物など皆無ではないか。礼も言わずに、失礼な奴らだ! しかし、まあそんな事はどうでもよい、目の前にあるB&W N801が問題なのだから。 さて、試しにウーハーを外してみたが、えらく丈夫に作ってあり良さそうなユニットだ。 これであんな低音しか出ないのかとエンクロージャーへ目をやると、やはり、発泡ウレタンのパッキンを介在してユニットが取付られている。 これが癌だと確信した私は、松田さんに断ってへばり付いたパッキンを取外し始めた。 しかし、これが両面テープが付いていて中々思う様に外れない。 後で使うことは無いでしょうから破ってもらって結構との松田さんの言葉に、それならと引き裂いて1本だけ何とか全部を取外した。 左側だけパッキンが無い状態で音出しした瞬間! 皆が居合わせた皆が一斉に声を上げた。 音場が完全に左へ寄ってしまい、やもすると右が鳴ってない様に聴こえるではないか! これだけ差が出ると言う事は、問題点がここにしかないと言う事だ。 早速もう一方も取外した。 さて、出て来た音は?それは土と水のライブそのものだった。 江川先生の声が妙にリアルで距離感も正確である。 井上先生のベースが目の前で炸裂しているのに、全く煩さの微塵も無い。 松田さん曰く、「仮に藤本さんがチューニングするから私に向こうの部屋へ行っていてくれと言われ、戻ってきてこれだけ良くなっていたら、100万円請求されても私は喜んで払いますよ」 クリニックで時々言われる事がある、あんたのところは「ただの物が1番良く効く」と。 以前、ASCの定例会で行った実験の結果ではあるが、これ程恐ろしく変化したのは今回が初めてであった。
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