D-Clock

Sound Den D-Clock改造実践記

飯田朗 Akira Iida


 当初この店ではLC-AUDIOというデンマークの会社のマスタークロックを扱っていた。この会社の社長が今度 DEXATechnologies という会社を設立し、D-Clockというもののサンプルを送って来た。それがものすごいものだったそうで、サウンドデンで扱うことがすぐに決まった。 私は早くからサウンドデンに依頼してLC-AUDIOのクロックを搭載したCDプレーヤーを使用していた。一度まともなマスタークロックのサウンドを聴いてしまうともう元に戻れない。これはアンプがどうのこうの、スピーカーがどうのこうのという問題とは別な次元なのだ。たとえば懐かしい話だが、カセットデッキを思い出してほしい。カセットデッキはアナログなのでワウフラッターがあった。回転ムラのことだ。ピアノなどを録音すると「ポーン」ときれいに尾を引かずに「ポ〜〜ン」ニ音が揺れる。音感が鋭い人には耐えられないもの。これはアンプにジェフローランドを使おうがマークレビンソンだろうが関係ない。スピーカーが10センチだろうが38センチだろうがこれまた何の関係もなくスピーカーから不快な音揺れが出てくる。マスタークロックもまったく同じことなのである。
 こう書けばお分かりだろうか。ワウフラでキョロキョロ・ケロケロと音が揺れるカセットデッキでピアノを聴いていたらどんなに高価なシステムでも真価を発揮できない。低音が出るとか高音が伸びる、音が締まるとかという問題よりも、再生される音楽そのものの品位が最初から話にならない。それと同じことがクロックにも言えるのである。

マニアの思い込み

 「いやあ、恐れ入りました!まったくおっしゃる通りでした。完全に私の勘違いでした」と知人のWさん。
 何のことかというと彼のCDプレーヤーにサウンドデンでD-Clockという新しいマスタークロックを搭載してもらったのだ。彼は「クロックが正確→規則正しい音→神経質な音または硬い音」と勝手に決め込んでいたのである。私が絶対にそれは違うといっても信じなかった。 こういうおかしな勘違いは昔からオーディオマニアに非常に多い。「トランジスタアンプは音が硬い」に始まり、「DCアンプは直流まで増幅できるからすごい重低音が出る」とか、「ハイサンプリング→高域特性がよい→チリチリときつい音がする」など勝手なイメージだけで結果を想像してしまうのだ。Wさんもまったく同じで、自分で勝手に「神経質な硬い音」と決め付けて信じ込んでしまった。それは誤解だから、とWさんを説き伏せてサウンドデンに愛機を送らせたのだが結果はいうまでもない。

 Wさんは「全然逆でしたわ。神経質でシャカシャカした感じの音になると思い込んで心配していたのですが、結果は正反対。音に潤いが出て来て、きつさが取れました。これまで聴く気になれなかったバイオリンなどのディスクも喜んで聴いています。この改造は絶対に必要です」と180度反対の意見になってしまった。

D-Clockの誕生

 広島に「サウンドデン」というオーディオ店がある。この店がずいぶん前からCDのマスタークロックのチューンをやっていたことはご存じの方も多いと思う。CDプレーヤーのクロックというとたいていは安くて小さい水晶で済ませているのが普通だが、それをこの店で交換・改造してもらうとまるきり別物というようなサウンドに大変身するのだった。

 



D-Clock
いよいよ試聴!

 さて最初から4台まとめて送るのも大変だからとりあえず1台だけ、エソテリックを送ってみた。これはサウンドデンのホームページを見ると「改造難易度 大」の部類に入る。藤本さんの関東出張と重なったので少し時間がかかったがやっと仕上がった。私は早速バラして、中を見た。
 我ながら馬鹿だ。せっかく届いたものをすぐバラすのだから。でもそれがマニアというものだろう。本当に狭い場所に、みごとに入っていた。
 さて元に戻して音を聴く。音が出た瞬間「これはなんだ!」という驚きと「(改造を)やってよかった!」という満足が同時に頭に閃めいた。そのくらいに違う。よろしいか?私のCDプレーヤーは元々がノーマルではない。すでにサウンドデンで改造をしてあったのだ。それと比較して全然違うのだからこれは化け物か!
 音の立ち上がりはさらに速くなり、もうこれ以上速度アップできないのではないかと思うほど。最初に書いたように立ち上がりが明確になるというとすぐに「きつい」とか「うるさい」というイメージを抱く人がいるかもしれないが全然違う。逆に立ち上がりがナマったり潰れない分だけ柔らかくなるのである。(つまり原波形に近くなる=歪みが低減する)

迷わず決断

 私はD-Clockの採用を迷わずに決めた。デンの藤本オヤジが言うのだから大袈裟とは思えない。彼は口先だけで他人を丸め込むようないい加減なオーディオ屋のオヤジとは違う、行動と真実の人だ。(ヤクザですけどオトコだ・・・)彼がここまで言うのだからD-Clockというのは本当にすごいものに違いない。ただちに私は手持ち4台のD-Clock化を決心した。

 こういう時は「やる」か「やらない」かをすぐに決心したほうがいい。世の中はすべて「二択」で動いている。「右か左か」、「行くか行かないか」で運命が大きく異なる。「乗るか乗らないか」で飛行機や列車事故で死ぬかどうかさえ決まるのだから・・・・。
 昔の話だがソニーのデジタルアンプを聴いた時、私は即座に2台買うことを決めた。お金のことは後回し、とにかく決めてしまうことが必要。家や土地を買うのだってそうだし、見合いや結婚も同じである。株や競馬なんてもっとストレートだ。頭の中をゴチャゴチャにしていつまで考えていてもまともな結論は出ないし、チャンスを逃すだけだ。

 



D-Clock

 これは「完全一体型で、しかもSACDが聴ける」ということで買ったものだがどうもパッとしなかった。十分に金がかかっていることは分かるのだがどうもスッキリしない。音が抜けて来ないし、一音一音に力がない。まあ○○○あたりの一体型よりはマシだという程度の理由で所有していた(使っていたのではない)わけだ。
 まず興味があったのはこの七面倒臭い改造をどうやってやったのだろうかということ。私は買った時に中を開けているからSA-1の面倒さがよく分かる。メカの部分はすっぽりと銅色に覆われている。とにかく金がかかっていることが分かる。これで50万円くらいだったと思うからある意味では安い。今現在、これだけのものを50万円で作る会社はないと思う。
 問題のマスタークロックだが、正直言ってやはりこれを見るだけの根性は私にはなかった。メカの上に見えるビスを回してもフタが開くわけではない。メカを外すには前面パネルと底板を全部外さなくてはならない。とてもそこまでやる気にはなれなかった。

D-Clockに打ちのめされた!

 さっそく試聴。まず内蔵のDACを使って音を聴く。ぶっ飛んだ! これはまたまたすごい変化だ。今までなんとなくゴソゴソしていて眠たく抜け切れなかった音が大々的に改善され、躍動感に満ちたすがすがしいものになった。これはもう別物という次元。マランツの狙いたかった音はこういう音だったんだろうなと思った。

 立ち上がりが速く明確になるということは楽器の音色や分離が非常に正確になるということ。今まで何の楽器が鳴っているのか区別ができなかったCDソフトからあまりにきちんとした音が出て仰天することだろう。
 私がぶっ飛んだのがハンドベルのCD。ベルの中にあるベロが当る瞬間の音までが完全に聴こえて来たのである! そして余韻が実にきれいに、いつまでも聴こえるようになった。「このCDがこんなに音がよかったのかなあ」というわけで、たまたまそばにあったマランツのSACDプレーヤー(オリジナルのまま)で聴き直してみた。そうしたらまるでベロの1つ1つをゴムで包んだかのように立ち上がりが甘くなり、余韻などはどこかに行ってしまった。そこでもう耐え切れなくなって、今度はこのマランツを依頼した。

2台目はマランツだった

そしてD-Clock改造2台目となるマランツのSA1が出来上がチて来た。これがまたすばらしい!SACDを聴くために使っていたのだが実は音がやや甘くて、低音が尾を引いてこもるところがあって諦めていた。ところがこのSA1が完全に生まれ変わったのである! これはすごい! ノーマルから一気にD-Clockにしたせいもあるだろうが、これはちょっとすご過ぎる!
 正直なところこのプレーヤーは「捨てようか」とさえ思っていた。もちろん「捨てる」というのは冗談で、誰かに譲ろうという意味なのだが「困ったお荷物」状態であったことは確か。

 



D-Clock

 次にトランスポートだけ使ってみた。そしてエソテリックと勝負させてみたのだがここでとんでもないことが起きた!
 好き嫌いがあることは百も承知だが、私はエソテリックのVRDSというトランスポートメカニズムに全幅の信頼を置いている。(とはいうものの、同じVRDSでも機種による音質の差は存在しているので要注意。なんでもいいというわけではない)これまでSA1の音があまりに悪いので「これだけ回路系に物量を投入してもダメということはメカがよほど悪いのだろう」と考えていたがこれは誤りだった。
 なんと戻って来たSA1は同じようにD-Clock改造されて来たエソテリックと好一対の名勝負をしたのである。語感が好きではないが若い人に分かりやすくいえば「タメ」ということになろうか。これは信じられないことであった。まさかここまですごいものに生まれ変わるとはまったく想像さえもしなかった!
 トランスポートの音質比較の結果は「音楽を聴くならマランツのほうがいいな」というものだった。エソテリックのグイグイと情報を引き出すような攻めのサウンドもいいのだがマランツはそれに音の太さと柔らかさが加わっていた。前者をモニターとすればマランツは紛れもなく音楽鑑賞用か。これはまいった!


鬼か悪魔か。
SA1所有の友人に改造機を貸す!

 私のオーディオ友達にK山というのがいる。かなりの耳の持ち主であるがマスタークロック改造には手を出さない。「世界に知られた大メーカーが自信を持って発売したコンポだ。いいに決まっているし、それを訳の分からない販売店に勝手にいじられてたまるか」と言い張るのである。メーカーとしては本当にありがたいお客様だと思う。こういう人はクルマを買っても純正を最高だと信じ込む。クルマの点検も全部ディーラーだ。そうでなければ安心できない、信じられないという。小さな町工場の熟練工よりもディーラーにさえ在籍していれば若い兄ちゃんの整備に命を預けるというわけだ。
 私は以前から彼にマスタークロックを交換しろと言い続けて来たが「嫌だ」の一点張り。今回いいことを考え付いた。彼もSA1を使ってSACDを聴いている。まったく同じ機種だから強引に彼の家に私のSA1を運び込むことにした。
 これは効いた。効き過ぎたともいえる。彼はとうとう負けを認めざるを得なかった。いかなる観点から比較しても小学生と大人みたいなもので比べるまでもないと言った。これはまったく正しい。彼はこれまですべてにわたってメジャー以外を拒絶してきたのだが、初めて超マイナーなサウンドデンに「負け」を認めたのである。これは彼の生き方までをも変える結果になるのではないかと思う。


結論
好きな音楽をいい音で聴こうと
思ったらD-Clockしかない!

 以前から書いていることだが、そこに可能性があることを知った時に一歩を進めることができない人間はマニアにはなれない。音がよくなる、映像がよくなるという確かな情報を得たらすぐに飛びつかないようではダメだと思う。迷いながらずっと考えていても音も映像もよくならない。お金のことなんか忘れて一気にGO!するしかないのである。
 確かにどんなひどい音で聴いたっていい音楽は感動する。しかし自分の好きな音楽を最高の状態で聴きたいというのがオーディオの目的であり本道ではあるまいか。そのための最短コースがここにある。D-Clockこそ、最も少ない費用でCDの究極を聴くことができる手段であろう。低音がどうの、高音がどうのという論争なんかどうでもいい。とにかくこの改造だけはしておくべきである。逆に言えば何百万円、何千万円の装置を並べたところで信号源であるCDプレーヤーがしっかりしていなかったら話にならないということだ。
 なおD-Clock改造について誰でも疑問に思うようなことを私がサウンドデンに質問し、それに対して答えてもらったページがある。迷っている人がいたら一読をお勧めする。

http://iidaakira.blog.ocn.ne.jp/dclockqa/